セレーンの祝福
「……かのセレーンも、君のように栗色の髪と琥珀の瞳を持っていたらしいね」

いつの間に近付いてきたのか、さ迷わせた視界に入ってきたのは、イサの白い指だった。

「!」

明らかに髪を目掛けて伸びてくるその指に、とっさに目を瞑った。

「イサ」

次に開いた視界に入ったのは、銀色。

師匠の後姿?

師匠は、イサの手首をやんわりと掴むと、彼の胸元へ押し返した。

「……過保護だな、エオル」

イサが鼻で嗤うのが、師匠の背中越しに聞こえてくる。

若い男の子には免疫がない私にとって、イサの存在は未知。

大国に仕える人はやっぱりそういうことに慣れてるのかな?

色々想像してみたものの、私の想像力じゃ限界があった。

村にいる私くらいの年頃の子供は、皆何処かへ出稼ぎに行っている。

師匠はそんなことしなくていいって言うけど…。

歳相応の知識も興味もないのって、私くらいのもんじゃ……なんてちょっと不安に……。

「カミルは何も知らないんだ。あんまり変なことを教え込むと、後が面倒だからやめてくれると助かるね」

「まぁ、確かにこんな村じゃな」

いや、師匠、面倒だからとか……。

この師匠に育てられてきて、本当によかったのかちょっと不安になるな……。

「エオル。ラグスに来ないか」

お前の力が必要なんだ。

くすくすと笑っていた無邪気さは姿を消し、1トーン低くなった声音が室内にやけに響く。

表情は師匠の背中で見えないけど、真剣な表情をしているだろうことは、想像に容易い。

……あのラグス国へ、行く?

もちろん、私も一緒だよね……?

「……師匠…」

目の前のローブにすがると、やっとこちらを振り向いた師匠は、眉根を寄せていた。

「もちろん、カミルも一緒でかまわない」

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