美桜 ~俺の美しい桜~





 ……言葉が、出なかった。






 人を、女を、これほど美しいと思えたのは、初めてだったんだ。


 儚いまでに美しい。

 今にもこの風にさらわれてしまいそうなほどに。

 彼女はか細かった。




 “さああああ”


 吹き上げた風が、一度地面を埋めた桜の花びらを飛ばす。

 また視界を遮る、桜の嵐。



「………」


 開けたそこには、もう誰もいなかった。






 ―――これが俺・溝口 潤(ミゾグチジュン)が
 彼女、笠井 美桜(カサイミオ)を見つけた日。


 俺が、初めての恋に落ちた瞬間だった。




< 4 / 5 >

この作品をシェア

pagetop