絶対君主
2:勘違い
「鈴野サン、コーヒー。腹減った。ホットケーキ食べたい」
「…今さっき、お暇の挨拶をしたばかりですよね?」

怠そうに髪を掻き上げながら仕事部屋から出てきた三ヶ木さんには、5分も経たない前に今日の仕事の終了と帰宅の旨を伝えたはずだ。
…やっぱり聞いちゃいなかったか。
小さな溜息を吐いてカバンを足元へ置き、エプロンを取り出す。彼がヒトの話を話半分どころか完全に聞かなかったりもする人間だと知るには、1週間すら長かった。

「あれ、帰るとこだった?」
「…はい、まぁ…」
「ごめんごめん」

口では「ごめん」なんて言っているが、微塵もそう思っちゃいないだろう。彼の適当さ満ち溢れる言動にもそろそろ慣れてきた。
この部屋へ来た日の面影皆無な状態に磨き上げたリビングのソファーにゆったりと座り、煙草をふかしている雇い主をちらりと見遣る。
その横顔は相変わらず端正だ。仕事のことでも考えているのか、ひどく真面目な顔つき。

「…見物料取るよ?」
「え…あ…」

トントンと灰皿に灰を落とし、煙草を銜え直した顔がこちらに向けられる。
私の視線にはとっくに気付いていたか、その顔はニヤニヤと意地悪げで。カァと頬に血がのぼった。
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