出世魚
落ち着かぬまま決戦の金曜日。

今日は珍しくスーツで出勤。

就活以来のスーツで不自然な
動きになってしまう。

「ごめん、ネクタイ探してたら
遅くなった。」

息を切らして駆け寄って来る彼。

スーツ姿は雇用契約の時以来。

一言・・・カッコイイ。

悲しいかな、惚れ直してしまう
自分がいた。

「忘れもんない?」

「はい、大丈夫です。」


「では、行きますか。」


裏の駐車場に止めてある白い車。

後部座席にチャイルドシートを
見つけ、人知れず凹む。

「失礼します。」

「いいよ、そんな改まらなくて。
研修までもたないよ。」

彼は笑って車を発進させた。

会場までは約1時間。


ずっと沈黙だったらどうしよう・・。
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