フェイクハント
「ゴメン、俺の携帯だ。多分署からだと思う」


 そう云って海人は立ち上がると、部屋を出て行った。


「チェスター早く捕まればいいのにな。まさか静夫が被害者になるなんて考えもしなかった。ちきしょう!」


 抑えていた怒りがこみ上げたのか、秀樹はテーブルに拳を思い切り叩きつけ泣いた。秀樹が泣いたことで、雪絵がまた嗚咽を洩らしながら泣き出した。

 昔から秀樹と海人は正義感が強く、誰かがいじめられていると、必ず助けていた。雪絵は泣き虫でおしとやか、遥は負けず嫌いで気が強く、涼はみんなのまとめ役で思いやりが人一倍あり、典子は自分の感情をあまり表に出さないが誰よりも優しいのだ。全員の性格は大人になっても少しも変わってはいない。

 しばらく沈黙の時間が経ち、応接間は暗い雰囲気だけがどんよりと漂っており、涼達四人は暗い表情をし俯いたままで、遺影の静夫だけが飛び切りの笑顔だった。

 暗い雰囲気を払拭するように、ガチャっと応接間のドアが開き海人が戻ってきた。

 そしてすぐさま涼が顔を上げ、海人に目を向け質問した。


「海人、捜査に何か進展はあった?」


「あぁ、凶器のナイフと弓矢を販売した店が絞れてきたようだ。早く店を特定して、チェスターを捕まえなきゃな」


 海人が辛そうな顔をしてそう云うと、涼の後に続き一同は神妙に頷いた。
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