フェイクハント
 死亡推定時刻は、昨夜の十一時から深夜二時までの間であり、ホームレスの老人が発見した時刻は定かではないが、通報を受けたのが深夜二時半頃である。

 ホームレスの老人は犯人を目撃してはいないらしい。

 青いテントを張って河川敷で生活しているのは、この老人ただ一人であり、昼間は子供達や家族連れで賑わう河川敷も、夜になれば人の気配などなくなり、とても静かだそうだ。

 昨夜は雨が止んだ後で、ぬかるんだ土が広がる河川敷には多数の足跡が残っていた。

 そして暗闇の殺害現場に朝日が昇り、警察関係者がいなければ、事件があったことなど微塵も感じさせないほど明るくなったのである。


「朝日が昇ったな、足跡の採取は鑑識に任せて、俺達は署に戻るとするか。遺族にも連絡して、来てもらわないといけないしな。おい早瀬大丈夫か?」


「すみません。まだ信じられなくて……。静夫、桂田静夫とは二、三日前、一緒に飲みに行ったばかりなんです。まさか四人目の被害者になるなんて……」


「そうか……その時、桂田静夫に変わった様子はなかったか? 誰かに命を狙われているようなことを云ったとか」


「いいえ、普段通りでした。私と私の妻と桂田夫婦は中学の同級生で、家族ぐるみで仲が良く、時々会って一緒に食事することも少なくありませんでした。昔から彼のことは良く知っていますし、何か困ったことや悩みがあるなら、真っ先に私に話してきたはずです」


「そうか……。やはり怨恨ではなさそうだな。運悪く通り魔のような連続殺人事件の被害者になってしまったってことか。遺族には他の奴に説明させるか? お前が遺族に伝えるのは辛いだろ」


「いえ、私が彼の奥さんに伝えます」


「分かった。お前顔色悪いぞ、無理もないけどな。署に戻ったら何か少し食った方がいい」


「ありがとうございます。行きましょうか篠田さん」


 こうして、ベテラン刑事の篠田と、若い早瀬海人という刑事は事件現場を後にした。


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