フェイクハント
 お茶をトレイに載せると、応接間へ向かった。


「お待たせ」


 涼は典子にお茶を手渡すと、唐突に典子が話し始めた。


「静夫の浮気相手は雪絵だったんでしょ? 涼にも秀樹にも気を遣わせちゃったわね」


 典子は遠い目をして穏やかに云うと、涼は驚愕し、口が開いたままになった。


「そんな顔しないでよ。昨日、涼がトイレに行く時、ドアを開けたじゃない? その時何か声が聞こえた気がして、涼がドアを閉めてから、すぐドアを開けたのよ。それで廊下を覗くと、雪絵の部屋の前で立ち止まってる涼の姿が見えたと同時に、秀樹の怒鳴り声が聞こえて、ピンときたのよ」


 平静を保っているような話し振りをする典子だが、内心は複雑だろうと涼は思った。そしておのずとビルの上から看板を落として典子を殺そうとしたのは、遥の振りをした雪絵だったってことになってしまうのだから……。

 涼は祭壇に飾られている静夫の遺影に視線を向けると、典子の、静夫に殺されかけていたという話しを思い出し、憤りを感じていた。

 しかしこんな話題を続けていたら、典子の精神を追い詰めてしまうと思った涼は、咄嗟に事件の話しに変えた。

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