フェイクハント
「いくら、私が殺されそうな事実を知ったからって、海人が殺人を犯す必要はなかったと思うわ」


「海人、お前はそんな奴じゃなかったろ! どうしちゃったんだよ」


 誰が言葉をかけても、海人は心ここにあらずといった雰囲気で、宙を見つめて、ぼんやりしている。吸っていたタバコも、いつの間にか地面に落ちて火は消えていた。


「署に行こう、早瀬」


 篠田は悲しそうな表情をし、海人の肩を叩き腕を掴むと、トランクに差したままのキーを取り出し、車のドアを開け、海人を助手席に乗せた。

 そして篠田は涼達を一瞥すると運転席に乗り込み、エンジン音が響いた。

 海人を乗せた車は、静かに桂田家の門を出ていったのである。


 それを見送った涼と典子と秀樹は、しばらく時間が止まったかのように動けずにいた。
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