僕の唄君の声


目の前に迫る榊下の顔。

それにダブったのはアイツ。



――……誰も来ねェよ?


「(誰も、来ない……)」


意識を浮かばせれば見開かれた目は普段の私の瞳に戻っていた。


いつもの汚れた目に―…。


榊下は近付けていた顔を若干右にずらし私の耳元に唇を寄せた。


「榊下とかアンタとかで俺のこと呼ぶんじゃねェ。」


元の位置に戻った榊下に視線をジトっと移せば玲でいいとポツリと呟いた。


「帰るかー」

「…うん。」


キーンコーン―…

「お、ぴったり〜」



帰ろうと立ち上がった榊し…、玲は携帯を弄りながら長い足を優雅に前に進めていった。そして、なかなか来ない私に気付いたのか行かねェの?と声を掛け片付けないといけないからと苦しい言い訳をした私に携帯に目を移しながらじゃあお先にーとスタスタと姿を消した。




――…誰も来ねェよ?

――…だれもこねぇよ?

――…ダレモコネェヨ?




「誰も―…、来なかった…。ハハハ…」



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