僕の唄君の声
(華己視線)


「…壱葉。」


もう一度名前を呼べば私を見つめてくる壱葉の目には涙は浮かんでいなかった。忘れたフリをしていつも恐怖と戦っていたんだろう。


バタバタバタ―…

「華己ちゃん…!」

「………っ!…何したんだ?」


足音がしたと思い振り向けば奏輔くんと玲くん。玲くんは私が走り去ったからと言うより壱葉が気になって来たんだろう。すぐに壱葉に視線をずらし、…感づいた。


「…っ!来な、で…」


壱葉の声がして振り向けば、壱葉が立ち上がって後ろに下がろうとしていた。


「っ危な…!」


ここは階段。後ろに下がれば落ちるに決まっている。咄嗟に口から出た言葉とは裏腹に、体は全く反応しなかった。

落ちていく壱葉の体にやっとのことで手を伸ばしたが私の手は空を切った。
そして壱葉の後を追うに傾く私の体。ぎゅっと目を閉じた瞬間後ろから腕が伸びてきて私の腰を支えた。


「……!」

振り向くと奏輔くんがニコリと笑い掛けてきた。すると突然、私の横を玲くんが通り過ぎた。


「……チッ」


舌打ちとともに壱葉に手を伸ばし腰に腕を回した玲くんは手摺りに手を伸ばした。不安定な姿勢だが玲くんは壱葉をしっかりと自分の体に引き寄せていた。



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