僕の唄君の声



バスケ部はいつも他の部よりも練習時間が長いため、帰り道はかなり空いている。バスケ部ファンの子たちはマネージャーとかが上手く動いて帰らせるらしい。


「奏輔くんってさ、よくダンクするよね」

「ジャンプ力が何故かものすごくあるから楽しくて、ついドカーンってやっちゃうんだよね〜。」

「そうなんだ!かっこいいよね〜」

「い、いや、そんな!華己ちゃんもかわいいよほんと!」



目の前で繰り広げられてるのはバカップルの会話。最初は玲も面白がって聞いてたが、最近ではiPodが鼓膜の友達だ。私もいつもはそうなのだが、今日は運悪く、iPodは家で留守番中。



「‥‥はぁ、」

何度目か分からないため息を零しながら、iPodの操作をする玲の横顔をチラリ、と見る。



‥どうやったらこんなイケメンになるのか不思議で堪らない。




「‥、何した?」

「、へ?」

イヤホンを外しながら聞いてきた質問に反応出来ずに間抜けな声を出せば、

「こっちずっと見てるから、」

と言ってきた。
‥不覚。

「あ、あー、別に。」

「‥お前、iPodは?」

「家にて留守番。」

「きつくねェ?それ。」

「すっごいきつい。」



目線を前に向ければ、手を繋いで笑い合う親友たちが居て。羨ましいわけじゃないけど、なんか幸せそうだなって思った。


「ん、」


すると目の前に飛び込んできたのは、さっきまで玲の右耳についてたイヤホンと同じデザインのイヤホン。


「、?」

「片耳だけなら貸すけど。」

「え、でも、」

「他の奴とか気になんねェから。」


大丈夫だから、と手の甲をピトリと頬にくっつけられた。

「、!‥あり、がと」

「ん、いい子。」

「‥ふふ、」






手渡されたイヤホンから流れるのは、低音の効いた重みのあるバラードだった。




聞き覚えのあるそれは、以前私が玲に教えた、大好きなバンドの曲だった。


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