恋色想い



颯の手が、私の背中から離れていく。


少し名残惜しくて、私は離れていく手をじっと見つめた。





そしたら、その手は私の頬をそっと撫でる。


その手つきがまた優しくて、私の涙はよけいに零れた。





「碧衣の泣き虫。」



意地悪い笑顔を浮かべて、颯は私に言う。






「泣き虫じゃないもん。…私、めったに泣かないんだから…。」


そんなことを言ってみても、きっと、今の私には説得力はないだろう。





ぷくっと頬を膨らませると、颯の手が私の頬をつつく。


「ブサイクな顔が、よけいにブサイクになるぞ。」




優しかった颯は、完全にいつもの颯に戻ってしまったみたいだ。





「もう!颯のバカ!」







明るかった海は、静かに夜を迎えようとしていた。

一番星が、キラキラと輝き始める。





「やっぱり、海はいいなぁ。」



ぽつりと私が呟くと、颯はふっと笑う。



「じゃあ、作戦成功だな。」

不敵な笑みを浮かべて、颯は私に言った。




「…どーいうこと?」




「一番碧衣の心に残る出来事にしてやろうと思ってさ!…まぁ、振られてたら俺の心に違う意味で残ってたけどさ…。」






< 78 / 230 >

この作品をシェア

pagetop