拾遺詩集 キマイラに捧ぐ
Ⅰ.電脳内滑落死体

木洩れ日


  木洩れ日


千引の岩によりかかって
足を投げ出して座っている
木洩れ日が
膝の上にちらちら

もう随分
長い間座りこんでいる
立ち上がる気がしない
立ち上がるつもりもない
見上げれば空は青色
日の光
葉の間から見える

少し微笑む
少しだけ苦笑に似て

長い間寄り掛かったまま
この形のまま
屍になりそうな
最高の脱力感
愛される期待を
全部手放して
悲しみの刃が
何本も胸から背中に
突き通ったまま
それでもこうして
生きていられる

だから
嫉妬なんかより
ずっと楽な死に体
嫉妬には期待がある
愛されるかもしれない
という期待

それは
ない

死に近い悲しみを
受け入れたら
千引の岩の向こう
地の底では
腐り落ちた私の半身が
幸せに暮らしている

桃を投げつけ
ククリヒメにとりなされ
なぜだか此処に戻ってきた
まだ生をこちらに
置かれているのだろう

生きようとするつもりはない
命は運ばれるだけだから
此処に座って死んでも
かまわない

生きても
かまわない

ただ
この後に及んで
生きようとは思わない

何も望まない場所に
ただ背中を預けて座っている
それでも空は青い
木洩れ日も
樹々の間から
ちらちらとしている

命は
意志とは違うものだと
虚脱の中で感じる
同じように
命は
死とは関係ないことも
生とも関係がないことも
この虚脱のなかで
感じていられる

立ち上がる理由も
生きる理由も
死ぬ理由も
見当たらないことが
とてもいい








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