甘味処[斬殺]

2:殺す話

2004年の2月。冬真っ盛りだが、雪は無かった。
祐樹は公園にいた。天気の良い今日が折良く日曜日だったので、一見して高校生くらいの年齢に見える祐樹が真っ昼間からベンチで老人のようにだらだらしていても、別に好奇の目を向けられることもなかった。それを幸いとベンチでだらだらしに来る祐樹は、嗜好的には老人のようだと言って差し支えないだろうが。
そんな事は欠片ほども気にせず、祐樹は「毎日このくらい晴れてたらいいのにな」とお気楽極楽な事を考えて、ベンチに座ったまま伸びをした。

「ぅぬー…ッと。いやぁ、のどかだねぇ」

すると不思議なことに、突然ベンチの背もたれが口を聞いた。

「言うに事欠いて、長閑とはな。それが殺人鬼の台詞か」

飛び上がらんばかりに驚いて、祐樹は背後を振り向く。そこには黒い壁があった。背もたれではなく、壁が話し続けた。

「真っ昼間からよく公園などにいられるな…もっとも一般人に正体を知られていなければ、世間は問題にすらしないのだろうが」

壁が忍者屋敷の隠し扉のように裏返った。壁に見えたのは黒いコートを着た背中で、その上の方を見ると男の顔があった。
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