月に願いを
「わかりました。羽鳥に参ります」

君主と奥方はほっと目尻を下げて目を合わせて微笑んだ。




「殿のお話はいかがでした?」

いつも暗く虚ろな顔でいた結姫が、君主の部屋から戻ってきた時には憑き物が落ちたようにスッキリした表情をしているのを見て何かよい話だったのかと志乃は笑顔で訊ねる。

座に着いた結姫は菓子を摘みながら志乃に告げた。

「私の輿入れが決まった。羽鳥の若殿だそうだ」

志乃はたたみかけていた着物を手から滑り落とした。

「侍女の身でこのような事を申し上げるのは無礼と承知しておりますが…よろしいのですか…?」

「何がじゃ?」

思わず口ごもる志乃に結姫は笑顔を向けた。

「いえ…。結姫様がお決めになった事ならよろしゅうございます」

「志乃も一緒に羽鳥に来てもらえるか?」

「もちろんでございます。結姫様には私が付いておりませんと」

清鷹への想いが簡単に決着のつくものではないと、ずっとそばにいた志乃は十分わかっていたが、それでも婚儀の話は結姫なりに思案した上で承知したのだろう。
なら私は嫁がれる結姫様の力になろう。

久しぶりに明るい笑顔で会話を交わした二人だった。
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