詠い人
咲良は走っていた。
身体が、足がとても軽い。
まるで風になったようだった。
そのすぐ隣では外套を翼のようにはためかせながら詠い人―光華という名前らしい―が悠々と飛んでいた。
咲良はちらっと光華を見た。
信じられないが、彼女が咲良の足を動かしてくれた張本人なのだ。
詠い人とは、星降る夜に強い願いを持つ人の願いを叶えてくれる存在だと光華に聞かされた。
そして、光華は咲良のお兄ちゃんを探したいという願いに惹かれてやってきたとも。
ただ、腹に一物ありそうな気はしたが。
とにかく、咲良は兄を探すために、疲れ知らずの足を願ったのだった。
そして咲良は、自分の勘だけを頼りに走り続けていた。
「それにしても、広いのね。たかが林と思ってたけど、これは森といっても問題ないですねー」
咲良はどこか違和感のある光華のしゃべり方に首をかしげつつ独り言のように応えた。
「元々山だから……自然公園だし、ここの自然といったら森だったのかも」
「ふむふむ。そういえば、そうだ。ここは久我山だったんですよね……」
光華はまるで懐かしむように目を細めた。口元は少し嬉しそうに笑っている。
咲良はまたふと違和感を感じた。
(ここの公園ができたのは、20年以上前だったと思うんだけど……。写真かパンフとかで知ってたのかな?)
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