詠い人

プロローグ

その日はニュースで100年に一度と言われる夜だと世間で騒がれた。
流れ星が絶え間なく流れて、夜空を彩る流星群。
そのなかでもとくに大きいと言われるペガスス流星群。
僕の妹は1週間も前からおおはしゃぎだった。
母さんも機嫌が良く、鼻歌なんか歌っている。
僕は牛乳を飲みつつそんな2人を見ていた。
そして、ひそかに僕も今夜を楽しみにしていた。
もっとも、僕が楽しみにしていたのは100年に一度の流星群なんかではなく、今夜だけの家族全員がそろった小旅行だ。
僕の父さんはなかなか帰ってこない。仕事でいろんなところへ行くためだ。出張が多いとも言える。
そんな父さんが今日帰ってきて、高台にある自然公園に行って星を見ようと約束してくれたのだ。
車で1時間もかかる場所だけど僕は父さんとどこかへ出かけるというだけでものすごく嬉しいんだ。
「お兄ちゃん?」
おもむろに妹の咲良が話しかけてきた。
「なに?サクラ」
「牛乳、こぼれてる、こぼれてるよ!」
「……え?あ、うわぁ!?」
咲良は慌てふためく僕を見て可笑しそうに爆笑した。
咲良は一度痛い目見ればいいと思う。
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