LAST LOVE -最愛の人-
まずいつも初めにすることは、受付に張ってある出勤簿に目を通すこと。


その日は芽依、理子と翔の三人が同じシフトで入っていた。




(―――あ。)


最近、拓弥と同じ勤務で無いことに、胸を撫で下ろしている自分が居る。



付き合い出してから、皆と一緒の場で拓弥にどんな顔をして良いかが分からない。




「芽依ちゃん。あ、莢木くんも」


既にポロシャツに着替えていた理子が、二人に声をかけた。


「二人で一緒に来たの?」


「うん、電車で会ってね」


翔に彼女が居たということは、芽依達にとってみれば、これ以上と無いおいしいネタである。

しかし、今日の翔と彼女の気まずい雰囲気を目にした芽依は

何故かいつものように

『ちょっと理子聞いてよ!莢木くんってばさ!』

と明るいトーンで話し出す気にはなれなかった。


芽依はその選択で間違えていないと思っていた。

翔が自分から話し出すまでは。


「実はね東サン、今日俺、彼女との別れ話を結城サンに見られちゃって~」


「はぁ?!」


翔の軽いノリに、芽依は思わず声をあげずにはいられなかった。


「え?莢木くん彼女いたの?でも別れたの?え?」


理子は目を丸くしている。


「うん、別れました」


「なんで?」


「んー。彼女、一年くらい留学するらしくって」


「うん、それで?」


理子が首を傾げる。
その仕草はまるで小動物的だ。

「『それで?』……って言われても、それだけなんですけど…」


「はぁ?!」


芽依は二人の会話の流れに、再び感嘆の声を挟んだ。


「結城サン怖い…」


鋭い目が翔を突き刺している。

「いやだって、好きだから付き合ったんでしょ?!」






『そうですけど~』


芽依の想像の中の翔はそう呟いた。

拗ねるように唇を尖らせながら。

しかし、芽依の予測は当たることは無かった。








「違いますよ」


「会えるから好きだっただけです」

「それだけです」




それは、限りなく明確な答だった。
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