ただ あなただけ・・・
しばらく沈黙が続いた。男はじっと妃奈を見つめていた。妃奈は俯いたまま耐えていた。


――恥ずかしい・・・そんなに見ないで・・・――


「・・・あの後の事、覚えているか?」


「え・・・?いえ・・・何も・・・」


突然そう尋ねられ驚いた。やはり、何かあったのだろう。


「あの・・・私、何か失礼なことしました・・・?」


――全然覚えてない――


それどころか、名前すら言ってない気がする。


「そんなに怖がらなくてもいい。あいつから・・・・何も聞いてないか?」


「怖がっては・・・無いですけど・・今の状況が何なのか・・・まったくわからないんです・・・」


妃奈は男を見て、今思っている事を言った。


「――気に入った・・・」


「・・・は・・・・・?」


――思わず耳を疑った。何を気に入ったの?私は初めて会ったのに――


男はソファーを立ち、ゆっくり妃奈のいるベッドに近寄った。そして、ベッドの縁に腰を下ろした。


――ち・・・近い・・・――


思わず男から離れようとしたが、遅かった。
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