ただ あなただけ・・・
第一章

『は・・・?浮気された?』

それは一本の電話から始まった。
「・・・聡志が歩いてたの。社長の娘さんと、楽しそうに」

週末の賑わった街、仲良く寄り添う恋人達は少なくはない。数時間前まで、自分が歩いているはずだった恋人の隣には、見知った女がぴったりと寄り添っていた。

『聡志君が?見間違いじゃないの?あんなに誠実な人が浮気するなんて』



―見間違いなら良かったのに―


ぎゅっと携帯を握る手に力が入った。


『―・・・な?ひな!聞こえてる?』


「・・・・え?うん、聞こえてる。ごめんね、お姉ちゃん」


『なに?急に』


三つ歳の離れている姉には、いつもお世話になっている。親身に相談に乗ってくれ、今も自分の恋人が浮気しているかも知れないと、相談している最中だ。


「ううん。ありがとね。話したらすっきりした。そうだよね、強引に付き合わされたのかも」


妃奈はテーブルの上にある写真を見た。そこには優しく微笑む聡志がいた。


「この事は忘れるね。きっとあの人なら、何があったか話してくれるから」


『・・・妃奈。今度飲みに行こうか。久しぶりに会いたいし』


「行く!電話じゃ話せ無いこともあるし」


『よし。また日にちとか決まったら連絡するから。あんまり考え込んじゃだめよ!』


「うん。わかった。それじゃあ、楽しみにしてるね」


姉からわかった、と返事がきて電話が切れた。
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