SOUND・BOND

一箇所でパシャッ!という音がすると、連動するかのように我も我もと撮影会がスタートした。
 
あっという間にほとんどの客が、携帯またはカメラを陸燈にピントを合わせるかたちになった。
 
このなんとも狙われているような嫌な、というより怖い雰囲気にも関わらず、陸燈本人は全く気にかけていない。寧ろ気にする暇がないほどに違うところへ意識を向けていた。
 
さっと視線をステージの直ぐ手前にやると、可愛い妹の姿をさがしていた。
 
客が増えたことで前のスペースにもほとんど隙がない。
 
本当にここにいるのだろうか。確かに別れたとき妹が前の方へ行ったのを見届けた。
 
しかし今見えるのは成人前後かそれ以上の大人だけ。
 
いない……?
 
あの小さな体は一体どこに――
 
こっちの方が明るすぎて客席の人間の顔がはっきり定まらず、不安は募るばかり。


(真空……)
 

心配する陸燈の気持ちをよそに、後方でドラムスティックの打ち合う音が調子よく弾んで鳴る。
 
それは演奏開始の掛け声代わり。


カ、カ、カカカッ。

 
この会場の何処かで見ていることは間違いないだろう。
 
そう切に思いながらギターへ指をからませ、ピックを構え――
 
歓声とカメラのシャッター音を無理やり押し返す感じで演奏はスタートした。


< 74 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop