SOUND・BOND

1-Ⅱ



日本の一番北に位置する北海道。

その中の一点、五稜郭公園の入口に五稜郭タワーがある。地上約90メートルの展望台から、史跡五稜郭や函館市内、その近郊を俯瞰眺望(フカンチョウボウ)することが出来る。

その展望台には、五稜郭の歴史を綴(ツヅ)った展示スペース「五稜郭歴史回廊」があり、特に16景の情景模型(ジオラマ)「メモリアルポール」では、今にも動き出しそうな精巧な模型をじっくり見ることにより、五稜郭の歴史と共にあった人々のドラマを垣間見ることも出来る。

そんな魅力溢れるこの街、函館の夜に、篤(アツ)く夢を追い求める若者も少なくはない。



そんな街中の、ある建物の内装。

真ん中を縦長に刳(ク)り貫(ヌ)き中の様子が見えるようにガラスがはめ込まれ、その周りを黒く縁取られた真っ赤な扉が4つ並んでいる。

まるでカラオケボックスのような造りのそのドアの上には、それぞれ違った番号の書かれたプレートが下がっていた。

ゴシック体ではっきり書かれたC-2の部屋で、20歳を少し超したくらいの青年が5人、緊迫した面持ちで話し合い、というより言い争いをしていた。

室内は窓も無く、机も無い。あるとすればマイクやアンプ、音調整や録音、エフェクターなどの音響機器ばかり。その手前、中央近くにはドラムセットが一式置かれている。


「おいおい。こんなくだらねえ話し始めてたんじゃ、このスタジオ借りた意味ねえよ」


ギターを両手で抱えている一人が、いかにもつまらなそうに吐き捨てた。

ここはリハーサルや、レコーディングをするための貸しスタジオの一室。

ここに集まっているのは、とあるバンドのメンバー。彼らは週に2日ほど夜にここを借りてバンドの練習をしているのだが、最近はなかなか思うようにリハが進まず、メンバー内でも不穏な空気に包まれることが多くなってきていた。


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