SOUND・BOND
「陸燈君?」
そのマスターから声が掛かった。
「すみません。気を遣わせてしまいました」
カウンターで接客をする50後半くらいのやや痩せ型の男。
いつも出演していることでそれなりに顔を覚えられたらしい。
そのマスターに、――これで平穏に帰ることが出来る――頭を軽く下げる陸燈。
「いやあ、謝ることはない。寧ろこっちが助かっているくらいだからな。客がたくさん入って盛り上がる。君が出てくれると楽しくて仕方がないんだ」
「楽しい、ですか……」
「ああ、こんな渋いところにはなかなか女性客は入らないからな。それに君のギターが好きなのさ」
また楽しませてくれよと笑顔を浮べてマスターは続ける。
「そういえば、今日は野外ライブやるのか?」
「……はい。そのつもりですけど……?」
なんだか心配顔を浮べるマスターに陸燈は不思議に思う。
「まあ、気をつけて」
それは一体何に?
陸燈は首を傾げるが、ただの帰りの挨拶だろうかと思い至り、軽く頭を下げる。
すると今度は思い立ったように彼は、
「あ、さっき可愛らしい女の子が裏口の方に行ったなあ。陸燈君のこと捜していたみたいだけど、知り合いか?」
真空だ!しかし……
「捜していた?」
「ああ、陸燈君のことをお兄ちゃんって呟いていたのを聞いただけだが」
それだけなら、彼には捜しているように映っても仕方がない。真実は待ち合わせをしに行ったのだ。