優しい刻
水野ありさを筆頭に、見るからにやる気のない四名。その再教育はきっと患者さんの為に繋がるはず。

主任からの『お願い』は、水野ありさの監視役。
「いわばお守り役よ」と言った主任に私は吹き出して笑ってしまった。
他三名は水野ありさと引き離せば主任と外科スタッフで何とかできる。しかし水野ありさは別格だと主任は言う。

「看護師の見本みたいな貴女と内科スタッフなら、きっと水野ありさを変えてくれる。あそこの主任の前川洋子さん、凄いんだから!」

主任が私の事を評価した上で頼ってくれたのが嬉しかった。それなら期待に応えたいし、私自身も変えるチャンスだ。
駄目なことは駄目だときちんと言えなければこの役目は果たせないのだから。





「如月優美さん、よね」

「はい?」

ナースステーション奥にあるレストルームで休んでいたとき、不意に声を掛けられた。

「外科の主任から聞いてるわ。水野さんの事、任されたんですって?」

凛と通る声。顔を見上げれば、意志の強そうな澄んだ瞳。黒髪を後ろにキッチリと束ねた上に乗るナースキャップには一本線――……

「前川主任!」

「洋子で良いわよ~。それにしてもちっちゃくて可愛いわね!いくつ?」

「かっ、かわ……っ!?それにいくつって……」

「あ、ついついオバサン癖が。年取るのって嫌ねぇ」

カラカラと笑う前川洋子主任。サバサバとしていて溌剌とした大人の女性。私が生きてきた中で一度も出会ったことの無いようなタイプだった。

前川主任は私の隣に腰を降ろすと、少し微笑んで私に向き直った。

「無理だと感じた事があったら何時でも言うのよ?貴女も少し成長しなきゃね」

「あ……」



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