優しい刻
優しそうなおじいさん。着ているものはとても上品で仕立ての良いものだと見ただけで分かる。きっと散歩かなにかの途中だったのだろう。

「あの、ご連絡先だけでも教えて頂けないでしょうか。何かお礼を」

「そんなものいらないよ。気にしないでおくれ」

「でもっ」

それでは私が納得がいかない。命を助けて頂いたのだから。

私が幾度も食い下がると、おじいさんは少し困ったように眉を下げた後、ふわりと微笑んだ。

「それなら……たまにでいいからこの老いぼれの話し相手になってくれるかね?孫が生きていたら、きっと君と同じ位の歳なんだよ」

思いがけない申し出だったが、私にはとても簡単なことだった。

「よろこんで!」

「お名前を聞いても良いかな」

おじいさんの浮かべる笑顔は懐かしい人によく似ていて、時折私はドキリとする。
しかし今はそれに気がつかないふりをした。

「私はここの近くのK総合病院に勤める看護師の、如月優美といいます」

「ゆみさん?」

「優しいに美しい、で優美です」

「……素敵な名だ」

おじいさんは笑みを含んで目を細めた。名を褒められた私はなんともくすぐったい気持ちになる。

「両親が、願いを込めてつけてくれた名なんです」

大好きな、大切な私の両親。

「その願い通りの人になることが私の生きる目標なんです」


――……優しいひと。私は、両親に望まれていた、そんな人間になりたかった。



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