優しい刻
「いつもすみません、如月さん」

「いいえ!これが私たち看護師の仕事ですから」

そう、金田さんは悪くない。
金田幸子さんは還暦を過ぎた笑顔の上品で素敵な女性だ。数週間前腰痛の悪化でヘルニアになり運ばれてきた。

「担当の水野さんにお願いしたんだけれど、忙しいみたいで……」

金田さんの心底申し訳なさそうな表情に私の胸はズキリと傷んだ。

「痛いところ、ここですか?」

「そう、そこ………ああ、有り難う」

マッサージしながら体勢を変えてあげると少し痛みが和らいだようだ。

腰のヘルニアは動き一つ満足にできなくなる。水野さんだってそれを重々承知しているはずなのに、彼女は一度も金田さんのただ「さすってください」という要求を呑んだことはなかった。

忙しい、という一言で。


金田さんの介抱が終わって、私は回りの患者さんにも軽く会釈して病室を出た。

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