飴色蝶 *Ⅰ*
貴女だけ・・・

彼は、知っていた。

遠い昔、自分が彼女に
惹かれていた事を。

生まれたままの姿で
彼の眼に映る美しい菫を
その胸にきつく抱きしめた後
  
彼は、優しく彼女の閉じた
瞼に触れる。

次に彼女の耳に触れ

最後に彼女の手に触れながら
告げる。
    
「俺は、知っていた
 
 俺の眼が、誰を見たいのか
 
 俺の耳が、誰の声を聞きたい
 のか
 
 俺の手は、誰に触れたいのか
 
 俺は学校の中、彼女を
 探していた
 
 彼女への想いを知っていて
 違う、間違いだと
 胸の奥に閉じ込めた」

「イオリ?」
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