前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



「こんにちは豊福くん。お帰りなさいませ、鈴理さん」

「ああ、ただいま。今日も良い運動をさせてもらったよ。ったく、空が照れてあたしから逃げるから」


こう言っちゃなんだけど、鈴理先輩はこの女クラの権力者なんだ。 

金持ちだから権力者っというわけじゃなく実力派の権力者。

揉め事が起きたらクラスを上手く纏めるんだって。


よく言えば女クラの姉御。

悪く言えば女クラの女番長みたいな存在。


頼り甲斐も男気、じゃない女気もあって、包容力も大きい女性。


だから女クラの中ではとても人気らしい。

俺もそういう先輩の姿を見てみたいのだけど、残念な事に……一度たりとも見たことがない。

いつも見る先輩はうん、まあ、女気……いえ、男気に溢れていると言いますか。雄々しいと言いますか。何と言いますか。


「うわっつっ!」


先輩に引き摺られていた俺は、急に体を引き上げられて素っ頓狂な声を出してしまった。

よろめきながら自分の足でしっかり立とうとした瞬間、腰に華奢な腕を回されてグイッと、もう一度言うけど腰に華奢な腕を回されてグイッと引かれた。

おかしい! 先輩に腰を引かれる、この俺のポジション。おかし過ぎる! 男としての自尊心が傷付けられるのは何故だ!


しかも顎に指を掛けられる意味が、意味が、分かるけど分かりたくない。

熱っぽく見つめてくる美人先輩を見つめ返し、俺は小さな溜息をついた。


「此処。教室っす」

「場所は問わない。あたしのやりたいようにやる。あんたは黙って流されればいいんだ」


出た、あたし様。男前な台詞に思わずが胸キュン……するわけないでしょーが! 俺が女の子に言ってみたいよ、その台詞!

思った瞬間に顎を引かれた。

先輩とは至近距離になり、満目一杯に彼女が広がる。

何をされたか? キスですよ、キス。

ははーん、舌が口の中に入って来た。出逢って何度目だよ、ディープキスってヤツ。


ぼんやりと先輩を見つめる。彼女のサラサラな茶髪と美貌が視界に占めている。こう見ると先輩って超美人だよな。

なんで俺みたいな男なんかに目を付けてくれたんだろう?

先輩との出逢いを思い出しても、彼女から惹かれるようなことをした憶えはない。進行形で惹かれるようなカッコイイ行動も起こしていない。


うーん、謎い………なんて呑気に思っている場合じゃない!



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