前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―

01. 草食の悩み




ハードでガチサバイバル、持久戦を要された先輩との楽しくも疲労の溜まったお泊り会も幕を閉じ、今日も同じような日常が繰り返されている。


繰り返されている筈なんだけど、お泊り会を契機に俺、豊福空は大変困った事態に陥っていた。


べつに先輩の家に泊まりに行ったせいとか、そんなんじゃない。


ただ俺のメンタル面で大変困った事態に陥っていたんだ。

最初こそ気のせいだと思って日々を過ごしていたんだけど、二、三日するとこれは気のせいじゃないぞ。どうしようなレベルになっちまっている。


今もそう。

学校を向かうために家を出た俺は、部屋に鍵を掛けて階段に向かったんだけど。


いつもなら手摺を掴んであっという間に下りられる階段を目にした瞬間、俺は悲鳴を上げたくなった。

変に汗が出て思わず手摺を引っ掴む。


「大丈夫だぞ」


高鳴る心臓を抑えながら、俺はゆっくりとゆっくりと段に足を掛けて下を目指した。なるべく下を見ないよう努めて。


これでもう分かると思うんだけど、俺は大変困った事態に陥っているわけだ。


はぁーあ、どうしてこんなことになっちまったんだろう。
よりにもよって高校生にもなって、高校生にもなって――。
 
 
 

「なに、高所恐怖症が酷くなった?」


昼休み。

ざわついた学食堂で先輩とお昼を取っていた俺は自分の悩みを打ち明けた。

だって先輩が浮かない顔をしているぞ、と指摘してきたんだ。

なんでもないと隠し通す自信もないし(公開ちゅーするぞと脅されたし)、先輩には俺のトラウマを話している。

彼女なら聞いてくれると思ったんだ。

それに俺自身も誰かにこのことを相談したかったんだと思う。

両親には心配掛けるから、こんなこと相談できないし。


先輩の作ってくれた特製お弁当を口に運びながら、


「酷くなったんです」


肯定してガックシ肩を落とす。
 

そう、俺、豊福空の悩みは高所恐怖症、トラウマが酷くなってしまったことだった。

俺の高所恐怖症はわりと重症で一階以上の窓の景色を見るだけで恐怖心が煽られる。


< 312 / 446 >

この作品をシェア

pagetop