前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



「ただいま。って、言っても誰もいないか。父さんも母さんも仕事だしな」



土曜の補習授業を終えた俺は、習い事がある先輩と別れ、昼前に家に帰宅。

静まり返っている居間を通り過ぎ、自分の机に向かって鞄を放り投げると、俺自身も着替えずに、そのまま着席。

腹の虫がきゅるると鳴る中、俺は机上に伏して項垂れた。


腹減ったなぁ、午前中で授業が終わったから昼食はまだだもんな。


家に何かあるかな。


インスタント麺くらいはあるよな、母さん昨日買い込んでたし。

大安売りしてたって嬉しそうに笑ってたもんな。


うっし、今日に昼飯はどどーんとインスタント麺だ!


あ、でも項垂れているのは腹が減っているからじゃなく、この現状にへこんでいるからで。


だってしょーがないじゃんか。


「はぁあ、今日も駄目だった。階段が怖いって思っちまっている」


もう一週間と一日と四日経っているのに、症状が緩和する傾向が一向にみられない。

これ以上に酷くもなっていないけど、緩和もしないってどういうことだろう。


せっかく高所恐怖症を治したいと明確な目標と理由が見出せたのに、克服法も原因も見出せないとか乙過ぎる。自分のことなのに。


相変わらず教室の窓には近付けないし、階段も下る時に限って恐怖心を煽られるし。

昨日なんて階段の踊り場で二の足を踏んでいたら、先輩に姫様抱っこされてっ、あああああっ、思い出さない。思い出さないんだからな!


小っ恥ずかしい思いをしたとか全然憶えていないんだからなっ!


「はぁああ、なんで原因さえ見つからないんだろう」


上体を起こした俺は通学鞄を床に置いて、並んだ写真立てを見比べる。

一つは実親、一つは今の親の写真。


各々俺が写っているけど、実親の写真の俺はチビでガキだ。写真も古い。


まあ、仕方が無いよな。

俺が五つの時に、交通事故で死んじまったんだもんな。

五歳以降の写真がある筈も無い。

育ての親の写真は定期的に入れ替わっている。


ちなみに今は俺が私立エレガンス学院に入学した時の写真が挟まっている。


両方の写真立てを手に取って、俺は微笑を零した。


「老けたな父さん母さん。こっちの父さん母さんは若いまんまだっていうのに。事故さえなければ、一緒に老けていたんだろうな」


交通事故さえなければ……な。

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