前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―

06. 先輩、大事件っす!



□ ■ □



「よし。今日も上れた。良い傾向に向かってる」


登校してきた俺は、自力で上り切った階段を振り返り、満足気に一笑を零していた。

驚くことに、あの日を境に俺は高所恐怖症に対する悩みが若干少なくなったんだ。


あくまで若干だけど、ダメダメだった階段が少しずつひとりで上り下りできるようになった。

前みたいに平然平気ヨユー、とまではいかないけど普通の歩調で階段を上り下りできるまでにはなったんだ。


階段を上れるまで回復したっつーか、元に戻ったっていうべきなのか、心にそれだけゆとりができたからかもしれない。


鈴理先輩の言うように、俺は幼少の記憶を取り戻してからずっと無理を重ねていた。

許容範囲をオーバーしても無理しようとしていたから、高所に対する恐怖心も煽られてしまって階段ダメダメ男に成り下がっていたんだ。


今は幾分、無理することをやめて素で通しているから、心に余裕がある。


おかげで周囲から見たら空元気で口数も少ないんだけど、無理やりハイテンションで学校生活を送っても辛くなるだけだから、俺は素でいくことにした。


先輩にもそっちの方が見ていて気が楽だと指摘されちまったから。


まあ、フライト兄弟には心配されちまったけどさ。

その内元気になるからと返したら、エビくんが「なんかあったら相談したらいいよ」ってチョコを、「いつだって聞いてやるぞ」アジくんがイチゴミルクオレを下さった。


この人達は神なのだろうか! 慈愛溢れる菩薩かなにかじゃないだろうか! すっげぇ嬉しくて、その時だけはニッコニコ笑っちまった。現金な俺!


と、まあまあ、良い傾向がある一方、ちょい気まずい傾向も発生しちまったんだよな。


なにかって言うと、俺と両親の間で、ちょっとあってさ。


あ、いや、喧嘩とかそういうのじゃなくって。

素でいこうと決めちまったら、突然俺、両親と喋りにくくなっちまったんだ。


一応普通には喋れるけれど、あんま自分から喋りかけなくなったっつーか。

目を合わせられないっつーか。

傍から見れば思春期真っ只中な反応っつーか。


口数が極端に減っちまった。

距離を置きたい一心で自分から壁を作っちまったんだ。
 

やっぱり引き摺っているんだと思う。幼少の記憶がさ。

急にどう接すればいいか分かんなくなっちまったんだ。

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