前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


この辺りに民家とかは、ああくそう、学校の敷地が主だから民家が見当たらない。

石塀の向こうに金網フェンスが見えるから、あそこをよじ登れば直で職員室裏、もしくは駐車場に出るだろうけど、俺は高い所駄目なんだよ! 石塀の高さは結構あるし。


だ、大丈夫。

曲がり角を曲がれば学校だ。


下校している生徒もチラホラいるだろうし、早く曲がり角を――ガシッ。


右手首を掴まれた俺は反射的に振り払って、BBBダッシュする。


怖いのなんのって怖過ぎて声が出ないくらいだ。

不審者を見つけたら大声で「助けて下さい!」と叫べって学校で習ったけど、実際、声出ねぇよ。防犯機具とか持ってないしさ。


気配で分かる、足音でもっと分かる。

俺は今、イカついオッサンに追い駆けられているってな! ははっ、マジ、笑えねぇ!



曲がり角を曲がる、向こうに正門と先輩達の姿……あ、あそこまで行けばどうにかっ! 大人を呼んで助けてもらえるっ!


同時に羽交い絞めされて曲がり角前に逆戻り。びっくり仰天だ。


「は、放せよ! 放せ!」


どうにか声を搾り出して大抵抗。身を捩って、ギャンギャン騒いだ。

チッ、舌打ちが聞こえたと思ったら向こうの腕が引っ込んで解放、そのまま肘が俺の脇腹に入って大ダメージを食らう。


ちょ、最悪っ……息できないくらい、痛ぇ。

脇腹を押さえてしゃがみ込む数秒後、曲がり角手前にワゴン車っぽい車が猛スピードでやって来た。

ピッタリ歩道に張り付いて急停止、扉が開かれる。


「乗せろ」


仲間らしき奴の合図で、身悶えている俺をイカついオッサンが担いで車内に投げ放った。

シートに背中を打ち付けるけど、痛がっている場合じゃない。


「っ、な、何するん……ッ」


ひゅっ、声が萎む。


「大人しくしろ」


車内に乗っていたお仲間さんにダガーナイフを突きつけられて、俺は恐怖のあまり声を呑み込むことしかできない。

なにがなんでこうなってそうなった。


落ち着け、俺はなんでこうなっ「そ。空!」



と、向こうに聞き覚えのある声。

外界に目を向ければ、驚愕している鈴理先輩の姿。


多分先輩のことだから、持ち前の地獄耳で俺の声を聞きつけて、ちょいとこっちまで様子を見に来たんだろう。


う、う、嬉しいけど、今は全然嬉しくないっす!

ちょ、先輩、早く逃げて下さい。こいつ等なんか危ないっす!


「チッ、竹之内財閥三女もきたか。計画外だがまあいい。乗せろ」

「なっ……やめろっ! 鈴理先輩逃げて下さいっ!」


ふざけるな、なんで彼女まで巻き込むんだよ。

脅しのダガーナイフに目もくれず、一杯一杯に暴れて先輩に逃げるよう叫んだ。


先輩だけでも逃げてくれたら嬉しい。


だって先輩は大事な俺のっ、俺の……先輩、お得意合気道でそいつの手から逃げガンッ!

 
後頭部に凄まじい衝撃が走って暴れていた俺の体がぐらっと揺らいだ。


真っ白になる視界と、沈む意識、それから……それから、先輩の悲痛な叫び――……。





< 394 / 446 >

この作品をシェア

pagetop