前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


気丈に振舞っていた先輩も、今回の事件には多大な不安を抱いていたんだろう。


泣き崩れている母親の下に駆けて、一言、二言、会話を交わし抱擁し合っていた。


近くにいた父親と一緒に、無事を喜び合っていた。


怪我は無いかどうか訊ねる両親に、


「空がずっと守ってくれて」


でも彼氏がボロボロだと嘆き、怪我を負ってしまったと喚き、ワッと声を上げて泣き始めた。


いつも勝気・強気・あたし様の彼女が声を上げてわんわん泣き始めた。
 

これにはちょい驚き。

大声で泣くこともそうだけど、そっちで泣くんっすか、俺のことで泣くんっすか、先輩。
 

 
――いやでも、俺が彼女の立場だったら同じ理由で涙していたに違いない。ごめんなさい、先輩。心配掛けちまって。



はぁっ。痛みに堪えながら、俺は瞬きの回数を多くした。超絶眠くなってきた。疲れたのかな。


だけどそう簡単に眠らせてはもらえないようだ。

鈴理先輩の家族に目を向けていた大雅先輩はこっちに視線を流し、


「傷だらけじゃねえかっ」


ヘーボン顔のくせにチョー男前上がっていると皮肉ってくる。


俺は力なく笑った。

ヘーボンは余計っす、どうせ美形の貴方には敵わないっすよ。


大雅先輩は鼻を啜って言葉を重ねた。それは後悔で染まっていた。



「あん時俺も鈴理について行けば良かったと後悔した。まさかテメェ等が攫われるなんざ思わなかったんだ。鈴理がいつまでも戻って来ないから、不安になってきてみれば……。

マジで後悔した。追々聞けば、二人とも誘拐されたと聞いて、居ても立ってもいられなくてさ。

ずっとお前やあいつの両親と一緒に、無事を祈っていたんだ……こんなになっちまいやがって。

無事でいろっつーんだっ、怪我なんかすんなよ! 鈴理と豊福が怪我ねぇよう、この俺が祈ってやったっつーのに!

ああでも豊福、てめぇが鈴理のことを守ってくれたんだな。畜生、受け身ばっか取っているくせに、なあにカッコつけているんだよ。

そこだけ男になるとか反則だろう。

やっぱりお前は鈴理の彼氏だよ。許婚の俺が認めてやった鈴理の彼氏だよ。俺なんかよりも、お前の方がずっと鈴理にお似合いだ。保証してやるよ」



「大雅先輩……」



「頼むからさっさと元気なれよ。仕方ないから、また一緒に飯を食ってやるから。だから絶対元気になれよ、俺がこう言うんだから、有り難く受け取れよ。お前から言ったんだろ、ダチになりたいって。

だから俺も言ってやるんだ、心配してやるんだ。喜べよバカヤロウ」


すっかり涙声の俺様先輩に俺は微苦笑を零した。

いつダチになりたいって言ったっけ。

細かいことは気にしないけど、大雅先輩のご命令だ。早く元気になれるよう努力しないと。


「今度何処かに遊びましょう。後輩のために元気になったらどっか連れてって下さい」


俺の誘いに、


「いいぜ。ドバイがいいか? ハワイがいいか? カナダがいいか?」


そこら辺に別荘あるから、と大雅先輩。


うーん、遊ぶ範囲が広過ぎる。予想外っす。

ご近所すっ飛ばして国内すっ飛ばして海外……俺はパスポートを持っていないんっすけど。


「そうだ。もうすぐお前のご両親もこっちに到着するぞ。本当は俺達とすぐにでもこっちに来る予定だったんだが、お前のお母様が一件の電話のやり取りで倒れちまって。さっき目ぇ覚ましたって言ってたから、すぐに来てくれると思う。ちゃんと元気な声、聞かせてやれよ」


大雅先輩が両親のことを教えてくれるんだけど、俺は生返事。


両親と再会できることが嬉しくないわけじゃない。

できることなら、すぐにでも大丈夫だったよ、と笑いかけてやりたい。


でも体力の限界だ。眠い。


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