蜜林檎 *Ⅰ*
投げられたサンダルを拾い

樹は、彼女の後を追う。

「イッキ・・・」   

その言葉に立ち止まる事無く
樹は、百合を追いかけた。
 
彼女は、あの川辺の袂に
立ち泣いている。

雅也と喧嘩をした後、必ず
彼女はここで一人俯いて
泣いていた事を

樹は、知っていた。

両手で頬をつたう涙を、何度
彼女が拭っても涙は瞳に溢れ
零れていく。
 
樹は、そんな百合を見て
いられなくなり、駆け寄り
彼女を、痩せた頼りない腕で
抱き寄せた。
 
驚く、百合に樹はそっと
優しく囁いた。
 
「泣いていいよ」

百合は、樹の胸に顔を埋めて
泣きながら胸の痞えを吐き出す
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