NOAH
「ここ、『NOAH』内部は起動していなかったとはいえ、維持させるにはたくさんの労働者が必要でね。昼夜を問わず働いてもらっているのだよ。その褒美に、極上の雌鹿を与えてやろうと思ってね」

「…?」
 
ヒューイの言わんとするところが解らず、レイは眉を顰めた。
   
「飢えた猛獣の群れの中で、雌鹿はいつまで正気でいられるか…。私は非常にに楽しみだよ。しかしお前にとってはどうかな?」

その言葉の意味を理解した途端、レイの体は震えだした。

「てめえっ…!」


過去、こんなに憎いと思ったことがあっただろうか。
 
母の存在とともに、ずっと憎んできた父。
 
けれどそれは、良くある父への反抗心だった。
 
でも、今は…。
 
本当に、心の底から憎しみが沸き上がってきた。

 
レイを押さえている腕を力一杯振り払い、ヒューイに勢い良く飛びついた。

「殺してやる!! 殺してやるっ!!」
 
感情のままに拳を振り上げる。

しかし、そんなことで命を奪う事など出来るはずもなく…。あっけなく従者に押さえつけられてしまった。
 
床に這い蹲る息子の姿を見て、嘲笑する父。

「殺してやるか。楽しみなことだ。しかし今は早く『NOAH』を動かす事だ。シオの命はお前が握っているのだからな」
 
高笑いをしながら去っていく父を、何とか捕まえようともがくが、どうにも動く事が出来なかった。

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