14怪談
僕が振り向けと言ってるのに、直子はまったく振り向こうとはしなかった。



「嫌です。振り向いたら、きっと公平さんは怒った顔をしています。
だから振り向きません」


駄々をこね始めた。


やれやれ・・。


まったく世話のかかる奥さんだ。






僕は直子を振り向かせるため・・・・





万感の想いを言葉にのせて・・・・・





優しく彼女に言った。





「ただいま。おまえ」




彼女はくるりと振り向く。



初めて出会った時の傷は全て消え、小動物のようにくりっとした瞳が、僕の視線と交わった。






彼女の淡い、薄ピンクの唇が無邪気に笑い、




白いワンピースを揺らしながら、




彼女は僕に駆け寄って、






大空を自由に舞う天使のように、僕に飛びついて、





腕を僕の首に絡ませ、







そして吐息が耳を撫でる距離で、






僕に甘くささやいた。














「おかえりなさい。あなた♪」




     おしまい


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