~秘メゴト~
 姫乃が身仕度を終えてダイニングに向かう頃には、父と兄は既に食事を殆ど終えていた。


「おっ姫乃、今日は可愛いな」


 にこやかに父が笑い掛ける。娘が可愛くて仕方ないのだ。
 
いつもは上がり気味の眉尻が、明らかに下がっている。


「今日はぁぁ?」


 姫乃は頬をぷぅっと膨らませて父を睨んだ。


「うん、今日は可愛いよ、ひめのちゃん」


 お味噌汁を啜りつつ兄の夕涼が、目も合わせずに無表情で云う。


「…んもー…いーよ、ふんだ」


 少々ふて腐れて食卓につく姫乃だが、母の美味しい朝食を食べ進めるにつれ、ご機嫌になる。




 雪のように白い肌。

 長い睫毛に縁取られた、黒耀石さながらに光る大きな瞳。

 薔薇の花びらを象る小さな唇。

 柔らかなセピア色の髪の毛は、肩で緩やかに波打つ。



 『白雪姫のような子供が欲しい』



 そう母が願った通りに、姫乃は愛らしく生まれ、心優しく育っている。

 この平和な家族の、自慢の娘なのである。





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