君が手を延ばす先に

追憶


恋をしていた。
今思えば、それはとても淡く優しい恋だった。
触れれば溶けてしまいそうなくらい。


きっと私達は愛し合っていたのだろう。
傍にいることが当たり前だった。

貴方の存在に救われていた。
私は、貴方を支えることができてただろうか。


貴方と共に生きる。それだけで幸せだった。
終わりを考えたことなんて、これっぽっちもなかった。

だけど、終わりのない始まりなんてない。出会いがあれば別れがあるように。
そんな当たり前のことを、当たり前のように忘れていた。


そして思い出した時にはもう遅い。
終わりがけに気付き、別れで悟るのだ。

人間は弱いのだと。
車に撥ねられただけで、ぽっくりあの世行きだ。

私と関わった人を悲しませ、運転手さんは責任を負うことになっただろう。ごめんなさい。


そして沢山の後悔をするのだ。
もっとああしておけばよかった、こうしておけばよかったと。
悔やんでも、もう遅いというのに。



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