土偶伝説
 校門を出ると、土偶は静かに話し始めた。


「いじめられて自殺したんだって」


「は? 何だよいきなり、誰の話ししてんだ?」


 土偶の云っている話しが意味不明で、何の話しなのか分からない俺はそう訊いた。


「さっき、廊下で里中の隣りに立っていた子」


 廊下に立っていた子って……、だいたい廊下には、あの時俺と土偶しかいなかったのに。

 すると、俺の心の声を見透かすように土偶は答えた。


「いたんだよ。里中には見えてないみたいだったけれど……。私達と同じ制服を着て。その子は、里中が助けてくれると思ったみたいだよ。いじめられて自殺したらしいから」


 俺は開いた口が塞がらず、驚いていた。
 幽霊ってことか? 

 俺には全く見えなかったし、今まで心霊体験などしたことがないから、ただただ驚くばかりである。


「俺、何も見えなかったぞ。だいたい何で土偶に見えるんだよ」


 そう云うと、土偶は立ち止まり、ギョロギョロした目を伏せた。


「昔から見えるよ。修学旅行の時のあれ、覚えてる? 本当はあの時、旅館の天井に幽体離脱してたの……」


 もちろん覚えている。

 修学旅行で泊まった旅館で、夜中に土偶が白目を剥き、口から泡を吹いて救急車で運ばれたのだから。けれども、まさか幽体離脱だなんて……。まさかな。


「本当だよ。その証拠に、病院に運ばれてからすぐ治ったでしょ。医者は何でもないって云って、不思議がっていたし」


 確かにそれは俺も聞いた。土偶はどこも悪くなかったと……。


「じゃ、私の家左だから。また明日」


 土偶は俺に疑問だけを残し、帰って行った。

 今考えると、それが土偶の謎、いや、土偶伝説の始まりだったのかもしれない。
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