蝕む月と甘い蜜


社員が行き交う広い
エントランスを櫂斗は
颯爽と歩く。

歩きながら腕時計に目をやった。

3時55分、約束の時間の5分前。

余裕のないのは好きじゃない。
取引先との打ち合わせが
長引いて思った以上に時間を
取られてしまった。

そして気を利かせたはずの
運転手の抜け道で
思わぬ時間ロス。

櫂斗は閉まりかけた
エレベーターのドアに
手を掛けた。

中にいた女性は
目を丸くしていたが櫂斗を
認めて笑顔になる。


「お疲れ様です、社長」


何階ですか?との問いに、
僕の部屋だと答える。


慣れたもので女性は
細くしなやかな指で社長室の
階のボタンを押した。





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