サクラノコエ
それでも、基本的にみんな「母親」なせいか、一人だけ若い俺に対して寛大だったりする。

そんな状況が、同世代のバイトに囲まれているよりも逆に心地よく感じる。

「松永くん、クルールーム(休憩室)に『ハンコウ』落ちてたよ」

「ありがと……つーか、今なんて言った? ハン?」

「え? ハンコウ」

「これ『はんこ(判子)』でしょ? ハンコウじゃ反抗期みたいじゃん」

お気に入りはこの人。31歳で、幼稚園に通う子供が一人いる相田さん。

「え? ハンコウって言わない? あ、そういえば、お店の看板に『ハンコ』って書いてあるね」

「相田さん、そのトシでその間違いはヤバイよ」

「確かに……」

言いながら、相田さんは顔を真っ赤にして笑っている。

好きとかそういうことではないけれど、普通に話していても楽しいし、こういうトボケたところが面白くて、ついちょっかいを出してしまう。

「みんなには内緒だよ」

「どうしようかな~」

「え~!」

相田さんの持つほんわかした雰囲気は、言ってみれば俺の癒しだ。
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