散らないサクラ



『秋羽、原沢言ってたよ。アンタの事、本当は優しくていい奴だって』

『休みの日が晴天だとさ、行きたくならない? 何がじゃなくて、ほら、行こう、ツーリング!』

『まぁた、眉間にシワ。秋、ジジイになったら“頑固ジジイ”ってあだ名つくよ』

『秋羽、帰ろう』



いくつも、いくつも、弥生の顔や言葉が浮かんでは消えることなく瞼の裏に焼きついていく。



深く息を吸って吐く。

それを数回繰り返す間、リョウは何も言わなかった。



「……まだまだ、俺は糞餓鬼か」



呟いた言葉に落胆や諦めはなかった。

ただその事実を認め、そんな自分を律するかのような響きを含んでいる。

リョウもそうと捉えたのだろう、安心したような顔が此方を見る。



「焦んな。焦る気持ちは分かるが、大事な事が見えなくなる」

「ああ。……あ、……、…………ありがとう」



未だ簡単にお礼の言葉が出ない事に恥じらいすら生まれる。

消え入りそうな音で出たお礼の言葉にリョウは原沢の時と同じ、大きく瞳を見開かれ凝視される。

その後に声を出して笑われ、やっぱ成長したわ、と笑い混じりの声で告げられる。



「次はお礼の練習だな」

「……絶対楽しんでンだろ」



呆れたようにして言えば、返ってきたのは温かい笑み。




「……秋、頑張れ」




優しい励ましに俺は微笑し、静かに頷いたのだった。







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