散らないサクラ



「……はらさ」

「前から思ってたけど、秋羽くんってイケメンだよねぇ。眉毛が短いのがちょっと怖い印象だけど」

「ああ、分かる分かる! 最初は怖いイメージしかなかったけど、話していくうちにそうじゃないって気づいて、そしたら、え、ただのイケメンじゃんって」



ふざけんな、こんな事をやめさせろ、と原沢に口を開くがそれも女子たちの声にかき消される。

仕舞いには俺の話で盛り上がる始末。

女ってのは群がったら群がっただけ煩くなる生物だと再認識する。

会話に火が着いたのか笑い声高々に騒ぐ女子たちを横目に、原沢を見ると両手を合わせ、“ごめん”と口を開く。

こうなったら最後、俺は宣伝役として歩き巡ることが決定する。

ただでさえ面倒な行事だってのに、更に面倒事を抱える羽目になる。




始まったばかりの文化祭に思うのは“早く終われ”それに尽きる。







「……やってらンねぇな」



宣伝役として歩き出して3分。

俺は看板を片手に裏庭にある石の階段に腰を下ろし、一服。

ふわふわと遊ぶように昇っていく煙を目で追いかけながら、行事ごとをサボるのは俺の特権だな、なんて呑気に考えていた。


ああ、サボり以前に学園にすらきてなかったか。


それが今じゃクラスの連中に“秋羽くん”扱い。

そしてそれに悪い気がしてない自分自身に苦い笑いが漏れる。



目を閉じると秋風が金髪を揺らして通り抜け、土と草の匂いを運んでくる。

穏やかな空間に、今文化祭が行われていることを忘れてしまいそうになる(既に忘れている、か)。

が、そんな穏やかな時間に分け入る弾けた声に閉じた瞳が開かれる。



「おー、いたいた。秋!」



陽気な声は明らかに俺を呼ぶ。




< 181 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop