散らないサクラ


俺は悪態を突こうとその背中を追おうとしたが、動きを止めてしまった。

いや、自然と止まったと言う方が正しい。

佐倉の背中に現れた、鮮やかな色たちに俺は瞳を奪われたからだ。


驚き、とは違う。


言葉を発せられたのに、俺はそれを飲み込んだ。

やけに鮮明に描かれたその背中にあるものに、俺はまた素直に綺麗だと言う感情を浮かべてしまっていた。



「佐倉……、お前」



口から疑問を吐きだそうと声を出すと、それがなにを意図したのか分かったのだろう。

佐倉が顔だけ此方に向けて納得したように頷いた。



「ああ、これ?」



ふ、と苦いような笑みを見せると、巻いていたバスタオルから手を離した。

もちろん、バスタオルは支えるものがなくなり床に落ちる。

だが、俺は佐倉が一糸纏わない姿になったことよりも、今度こそはっきりと見えた佐倉の
背中の鮮やかさに目を奪われていた。


そう、佐倉の背中にあったもの。


それはタトゥーと言うのには派手で、はっきりと色の入っているものだから刺青といったほうがいいだろう。


背中の肩口から流れるようにある、桜の花びらは桜吹雪を巻き起こし、そしてそんな桜と戯れるかのように一匹の竜が、腰のあたりまで存在している。


背中の真ん中だけぽっかりと開くようにして体を丸めている竜と舞う桜。


目を奪われずになんていられない。



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