恋する季節の後ろ髪

 向日葵を見た。

 視界いっぱいの。

「サヨナラがこんな場所じゃ、一生忘れられないじゃない」

 そう苦笑いを浮かべながらこぼす私に貴方は、

「だからこの場所に連れてきたのさ」

 いつもの意地の悪い微笑みで囁いた。

 その声は立ち上る草いきれよりもなお濃く、まるで耳の奥に“痕”を残そうとするかのように熱を伴ってこすりつけられる。

 彼の得意技だ。

 最後の最後まで本当にタチが悪い。

 いったい今まで幾度この声にやられてしまったことだろう。

「嫌な人ね、やっぱり」

 皮肉たっぷりにいってみる。

 通じはしないとわかりきっているけれど。

 すると案の定、

「しまったな」

「何が?」

 問いかける私にさも残念そうな顔で、

「今の言葉を録音するものでも持ってきておくべきだった」

 そんなことをいう。

 挙句、

「君のそのセリフが、何より好きだったから」

「へんたい……」

 けれどその「好き」というたったワンフレーズに心が揺らぎそうになる私も、十分どうかしてるんだろう。

「明日の飛行機は?」

「お昼前」

「時間は?」

「いわないわよ」

「どうして」

「見送りになんて来て欲しくないからよ」

「誰も行くなんていってないけど?」

「うそばっかり。貴方はそういう人よ」

「どういう人?」

「人の嫌がることばかりする」

「そうかい?」

「そうよ」

「違うなぁ」

「違わない」

「違うさ。だって──


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