Parting tears
「先にどうぞ」


 和哉は綺麗な笑顔を見せた。

 私は去年まで、バンドのボーカルを助っ人でしていたので、人前で歌うことが嫌いではなかった。しかし、和哉の前で歌うのはとても緊張する。

 流行の女性シンガーの歌を歌いながら、ふと和哉を見ると真剣に歌詞を読んでいるようだった。

 丁度「君に出逢えて良かった」という部分で、私は何だか恥ずかしくなって俯いた。
 歌い終わると、和哉は私に視線を向け、驚いたような表情をしている。


「結麻ちゃん、やっぱり歌上手いんだね。今まで聞いた中で一番上手いよ」


 そう褒めてくれたので嬉しかった。

 そして次の曲が流れ、和哉が歌い出したのだが、私は、綺麗な声とその横顔に見とれてしまった。ふと視線に気付いた和哉が私に視線を向けると、照れたのだろう、顔を真っ赤にしている。

 歌い終わると、和哉は真っ赤な顔を私に向け、困ったような表情を見せた。


「歌ってる時、そんなにまじまじ見たら緊張するよ」


「ごめんごめん。和哉君って歌上手いし、綺麗な声だよね」


「そ、そんなこと始めて云われたよ。最も女性とカラオケに二人で来たのだって始めてなのに」


 意外だった。和哉ほどのイケメンなら女性経験豊富だろうと思っていたので、かなりのギャップである。
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