午前0時のシンデレラ

だって、何よこの空気。


「樹里亜!頼むから、俺の話をっ…」


「知らないって言ってるでしょ!? はなしてよ!」


…まるで、修羅場じゃない。


少女は柳の手をやっとのことで振り払うと、男の人の元へ駆け寄った。


「帰りましょ、隼人。今すぐに」


「…分かった」


「樹里亜っ!」


柳の叫びも虚しく、2人は振り向くことなく出口へと向かって駆けて行った。


立ち尽くす柳の後ろ姿を、あたしは黙って見ていた。



…かける言葉が、見つからない。


あの人誰?

どうしてあたしに似てるの?


例えそう訊いたって、きっと柳は答えてくれない。


「…帰りましょう。柳」


ただそう言って、あたしは柳の手を握った。


何も言わない柳を引っ張って、遊園地を出る。


ひたすら真っ直ぐに、あたしは車を止めた駐車場へと歩いた。



…傷ついた顔をした、悲しそうな柳を…見ないようにしながら。


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