秘密の鎖

くすりと笑って、台所に向かった。


そっと足を踏み入れると、トントントンとリズムよくニンジンを切っているお母さんの後ろ姿。


「お母さん」


手を止めて、お母さんが振り返った。


帰ってきてからまともに口をきいていない。

でもそれは意地を張ってるわけでも、嫌いになったわけでもなく


ただ単に、はずかしかったから。


一日たった今なら、大丈夫な気がする。


「今日のご飯、何?」


「しょうが焼き。美緒好きでしょ?また優也とケンカしないでね」


ケンカなんかしないよ。




「お母さん、ごめんね」


動きを止めたお母さんに腕をまわし、抱きついた。


「どうしたのよ美緒……」


お母さんは驚きながらも、私の背中に手をまわした。



抱きしめてくれた。



お母さんの香り。

こうやって抱きしめられるのはいつ以来かな。

小さいころはよく、ギュッてしてくれてたね。


なのに私、いつからか恥ずかしくなって逃げるようになっちゃったんだ。


「私、お母さんのこと大好きだよ」


「何、急に」


お母さんは笑いながら私の頭を撫でた。



私の、かけがえのない家族。

私を生んでくれたたった一人の人。




これからは、

家族三人で


一緒に頑張って行こうね




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