桃園むくげXX歳である。

斎院あおい、2歳である。

　暑中見舞い申し上げます。

　朝顔の花の形を愛おしいと思った4歳からはじまり
　路上に並ぶ三角コーンが愛らしくて悶えた19歳
　アイスクリームはカップではなく、コーンをセレクト
　斎院あおいである。よろしく。

　諸兄はこの灼熱地獄の盛夏、いかがお過ごしであろうか。　
　当然、クラブ齋院は北極熊でも快適に酒が窘めるように、冷房は極寒の値を示している。
　キャストの多くはやわ肌を晒しているというのに、店は客のことしか頭にないようである。けしからんことである。

　店を出ればまるで熱帯性気候の密林である。
　私を木と間違えてか男どもが群がり、蝉のように延々と愛欲を語るのである。
　アイス片手に無視をして体を冷やしてみれば、蝉の鳴く声も涼やかに感じれるというものであるが、せっかく冷えた唇はすぐに男の熱に犯された。
　なすすべもなく溶けるアイスは男の流す雫と交わり、胸の谷間に消えていく。
　私を溶かそうと向けられる衝動が、心の円錐を満たすものでないのなら。
　固いワッフルコーンの切っ先をやわらかなところへ突き刺して身を翻す。
　それだけで蝉は七日目の絶頂を迎えるのである。

「暑いのにお前もよくやるよな」
　現場の路地に姿を現したホストの『信号機』は、両目を潰した蝉の亡骸を一瞥する。
　蝉の返り血と垂れたアイスで濡れた私の胸元へ手を伸ばし、冷えた指先で擦りとった。
　こいつも店から上がったばかりなのだろう。
　冷え切った指が心地よい。
　ドライアイス代わりになりそうである。
「ヒカルにアイスを買って帰る」
　電柱に止まっている蝉が鳴き出した。
　儚い命の代名詞と言われる蝉は、世間様では七日の寿命と知られている。
　配偶行動に必死な彼らの鳴き声に、人も急かされているに違いないが、その行為の行く末を、蝉が笑っているようにも思えた。
「全く──暑い」
「夏だからな」
　次の誕生日を迎えられずに逝く彼らの代わりに
　私は今日も体を冷やし、暖めてくれる諸兄を待つとしよう。

　暑中見舞い申し上げます。

　この夏で、キャバ嬢2歳
　斎院あおいである。
　よろしく。