残り香
 この時期の西の空はまだまだ暗い。
星がきれいだ。
今日はよい天気に違いない。
会社は大きな国道の立体交差から県道にそれる測道に面している。
倉庫の中から水銀灯の強烈な光が漏れ、
道路の歩道部分を間接照明のようにうっすら照らしている。
組み立て式の物置がメーカー別、
型番別にきれいに並べられている棚の前をスクーターを引いて、
以前置いていたのと同じ場所に停める。
半キャップタイプの白いヘルメットを脱ぎ、
ミラーにハーネス部分を掛ける。
涙と鼻水が垂れそうになるのを、首に巻いたタオルで拭う。
 アフガンハウンド、ケリーの姿が見えない。
大きな体と派手な長い毛は嫌でも目につく。
いつもアキラを見つけると駆け寄ってくるのに。
外で用でもたしているのだろう。
 駐車場に後ろの部分がパワーゲートになっている、
よくプロパンガスのボンベを運んでいるところを見かける、
それと同様のタイプのトラックが停められている。
あのトラックで出かけるとしたなら、ドライブのような仕事ではなさそうだ。
かなり重量のあるものもありそうだ。
「遅いぞ」
「まだ5:40ですよ」
アキラは黒いGショックの文字盤を指差した。
「そうか」
渡瀬がこちらに向かって歩いてくる。
一歩下がった辺りをケリーがついてきていた。
黒く長い艶の良い毛を揺らし胸を張り優雅に、
なんだか偉そうに胸を張り、上向き加減に歩いてくる。
アキラのことは忘れてしまったのか、今日は駆け寄ってこない。
あごの下から腹に掛けての白色の毛が良いアクセントになっている。
頭をなでてやる。
なんだか得意そうにスマした顔をしてる。
いつもと変わらず、少々憎たらしい態度だ。
なんだかけりーが一回り小さくなったようにも感じる。
 ケリーから見た私の格付けは、友達辺りの扱いなのかもしれない。
自分と同等程度にしか思っていないのだろう。
散歩をする時はいつもケリーが主導権を握っていた。
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